2012年06月20日

いとう:山灯(四谷三丁目)

昨日は台風の中、大変でしたね。

>代々木八幡の「和食 静流(しずる)」。
>女性ひとりでやっているカウンター割烹です。

あ、そうそう。ぼくもこの店を何かで知ってチェックしてたんです。
対談を見て、早々にだっちが行ってきましたよ。
さとなおさんには、ちと狭すぎるんじゃないかなw、とか言ってましたが。

実は、少し前になりますが、この「静流」並みの低価格で十分に飲み食いできる、というより、きちんとした懐石料理の、最後に炊き込みご飯や甘味まで付いたコースを純米酒の熱燗に合わせて、という日本料理店に行きました。
「山灯(やまびこ)」といいます。

四谷三丁目、いわゆる荒木町と呼ばれた界隈は、一時、昔の色町の活気を失いつつあったんですが、最近、特に若い料理人がここで店を開きイキオイが戻ってきました。もともと大好きなエリアなので、とてもうれしく感じています。特にこの街並みの特徴でもある和系の充実ぶりは、目を見張るものがあります。

「山灯」はそんな中の期待の一軒。山形の鮨店の次男坊として生まれた店主は、キチンと築地の日本料理店で修業をしての独立。すごく若いんだけど、料理にも酒にも、随所に個性を主張する姿は、すでにいっぱしの花板。カッコいいです。

もともとこの場所は、海外での和食店修業経験のある方が営んでいたこともあり、作り自体がモダンな感じだったのですが、それをほとんど居ぬきで引き継ぎながらも、若い店主の立ち姿は、さらに店全体のフレッシュ感を膨らませます。

料理は、本当に八寸から始まるきちんとした懐石料理で、一つ一つ土鍋で炊いたご飯や甘味までで4200円。なんちゃってな和風の低価格コースなら、もしかしたらあるかもしれません。でも、お椀もお造りも、そして米沢牛を使った料理までアリ。

というのも、山形のご実家が料理店を営む関係で、そこから直送されてくる食材を使うことによって、この価格が実現できるとか。まさに、築地に頼らない、若い料理人ならではの展開でしょうか。特に、東北の魅力である山菜を多用して、塩ではなく食材の力で強い料理を表現し、それを彼自身が大好きな、純米酒の熱燗に合わせていく、といったコンセプトなんです。

客によっては、「獺祭」はないのか、とか、「鍋島」を置くべきだとか、香り高い吟醸が好みとか、いろいろと言われるそうです。でも、彼は(今のところ)そういった客のわがままにもぶれることなく、濃い純米酒を熱して提供するスタイルを崩しません。

この低価格で、荒木町という素敵な場所ゆえ、今後は客も殺到し、純米酒が全く出ない・・・、吟醸酒をワインを出せと言われる日々との闘いが待っているんじゃないかと、本当に心配。
でも、ガンバレガンバレと口に出して、カウンターで応援し続けてきましたw。
posted by 伊藤章良 at 10:55| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月03日

さとなお:和食 静流(代々木八幡)

その通りですね。ボクも「もう少し安価でチェーンでない店」を探しています。
伊藤さんに教えてもらった、恵比寿に移転してきたあそこも近々行こうと思ってます。他にもどっかないかなぁ。ありそうなものだけど。でも安価だとある程度の仕入れ量じゃないと経営が大変なんだろうな…。

ということで安価でいい鮨屋はまだ見つかってませんが、この前、ある友人に連れて行ってもらった「1万円前後で飲み食いして十分満足できる店」をご紹介します。いや、1万円なんかかからないな。かなり飲んでも6000〜7000円くらい。ありえないほどのコストパフォーマンスです。

代々木八幡の「和食 静流(しずる)」
女性ひとりでやっているカウンター割烹です。

半地下のとても小さな店で、天井もとても低いので閉塞感がある部分はありますが、逆に妙に落ち着ける空間でもあります。隠れ穴でひそかに美味しい物を食べている感覚。8人で目一杯のカウンターを、静かで落ち着いた若い美人料理人がひとりで切り盛りしています。

お決まりが3500円。
とてもじゃないけどその値段とは思えない料理群で楽しませてくれます。旬の山菜や刺身、お椀に焼き物など、心のこもった上品で親密な料理が流れるようなタイミングで出て来ます。混んできても慌てず騒がずマイペースでひとつずつこなす彼女の所作が美しい。

で、ひと通りのお料理が出た後、ごはん。
これは追加料金600円かかりますが、釜炊きで実にうまいですね。ご飯のお供にジャコやメンタイなども次々出してくれます。卵がけご飯もしてくれます。

まぁ総じて料理は満足でした。なにしろ3500円だからなぁ。驚異的です。
彼女の故郷の関係でしょうか(聞かなかった)、食材もお酒も新潟のもの。日本酒は緑川と鶴齢と八海山のみでした。こうして絞っている感じがまた好ましい。そんな店です。

残念ながら(?)旦那さんもいて、違う店で和食料理人をしているとか。
ふたりで一緒にやらず、別々に「自分の料理」を目指しているのがとてもいいと思ったですね。一緒にやるとどちらかが主になってどちらかが従になるのが普通だけど、そうじゃないところがいいし、なんか新しいと思いました。

ちなみに店内に小さな木彫仏像などが飾ってありますが、旦那さんが彫ったものらしいです。玄人はだし。なかなか良いです。

寡黙な女将と向き合って美味しい日本酒と親密なお料理…。
家が代々木方面だったら通うなぁ。静かに流れる。店名そのまんまの、小体ないい割烹でした。
posted by さとなお at 17:54| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月21日

いとう:後楽寿司 やす秀(四ツ谷)

いい鮨屋はないものかといろいろと考えていて、随分時間が経ってしまいました。一応大好きな分野ではありますが、逆に困ってしまうことも多いです。

特に最近、鮨に関して自分に課しているテーマのひとつは、一定レベルを保ちながらも、もう少し安価でチェーンではない店は存在しないのか、という点です。ただ、あまり公表してしまうと、食べログラバーには単にCPのいい店として処理され、思わぬ客層の低下を招く可能性もあるしなあ、とか。

そんなオヤジくさい愚痴をいいつつも、1万円前後で飲み食いして十分満足できる店を紹介します。四ツ谷の「後楽寿司 やす秀」

この界隈って、意外にも銀座なみに鮨店の密集地なんですね。鮨というよりは、超高級海鮮居酒屋の「三谷」に始まり、50mぐらいの間に4〜5軒とひしめき合ってます。そのほとんどが新参なんですが、「やす秀」は少し路地に入った立地も相まってか、もともと安価ないわゆる街場の店的に運営してきた、40年以上の歴史ある店。「北島亭」とかのある道路(しんみち通りというのでしょうか)を歩くと、ランチタイムには「男はちらし 女はばら」と書いてある「後楽寿司」時代のの看板が目を引きました。それでも、料理自体からはさほど強い印象は受けなかったのです。

ただ、そんな硬派で地道な時代を経つつ、アメリカなどで修業をしていた二代目が戻り、基本的には二代目に任せるべく店舗を大改装。見違えるほど本格的な鮨屋空間となり、和とは思えないモダンなエントランスや個室風のテーブル席などもお目見えして、店名も後楽寿司の後に「やす秀」と付け、一気に雰囲気が変わりました。

改装前がどんな感じだったのか、もうあまり記憶にないんですが、料理のほとんどは二代目が担当。メニューも決めておられる様子。コース的な流れは、おきまりとおまかせがありいずれも安価。特に鮨屋でおきまりと言えば、にぎりのみの印象があるんですが、かなりのおつまみも出てきた後にぎりとなるので、満足度も高いんです。

酢飯は、個人的にはもう少し強い方が好みですが、タネはそれなりに吟味や仕事をされていて十分に満足。清酒も数本の地酒を常に揃えていて選びやすいラインナップ。以前からおられたかもしれませんが、接客担当の女性二人も、なかなか艶があって心地よいサービスです。そして、実直すぎるほどのウェブサイトやブログも、人となりが分かって好感度が上がること請け合い。

いっぽう残念なのは、歴史ある「男はちらし 女はばら」のランチ営業をやめてしまったことと、以前からの常連客は、鮨屋というよりは飲み屋として受け止めておられて、ツマミやにぎりがずっと置かれたままになっている状況が悲しかったかな。でも、徐々にそういった客を駆逐して、上質の鮨を安価にいただけるファンが確実に増えると思います。
posted by 伊藤章良 at 18:17| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月30日

さとなお:青山すし泉(青山)

「くろいわ」、たしかに割烹で奥さんも板前って珍しいですね。
小料理系は女性が多いけど、日本料理の厳しい修行の場に女性がいるのもまだまだ珍しいのでしょう。フレンチなんかでは女性シェフも増えてきましたが、なかなか割烹系では珍しい…。

ということで、女性板前の店に頭を巡らせたのだけど、思いつかず、普通に鮨屋をご紹介します。

東京は青山の「青山すし泉」
前から噂は聞いていたのだけど、訪問するのは初めてでした。

ベルコモンズ近くのスキーショップ・ジローがある通り。
いままで何度も通り過ぎていた足元の半地下にひっそりありました。「海味」のすぐ近く。もう12年もやっているというから、ずいぶん前からあったんですね。

18時くらいに入って、店を出るまで客はボクひとりだったので、店主といろいろ話をしながら食べられました。

一見話しかけずらい店主だけど、話すと優しくて居心地は至極よかったです。

印象に残っているのはタネの温度管理。
シャリとタネを同温度で握り、口の中での温度差をしっかりなくしてくれる。当たり前のようだけど、最近タネの温度管理がとても気になっているので(シャリに比べてタネの冷えすぎが多すぎる)、こういう基本的なところがとてもうれしかったりしました。

で、シャリは至極優しいんだけど、握り自体はしっかりイメージが屹立していて、店主の目指している方向性がくっきりわかる、そんな感じの鮨でした。優しいけど弱々しくない。

握りでは特にカスゴが印象的でした。
カスゴって皮を残して飾り包丁入れて軽く締めるのが普通かと思うけど、ここのは皮を残さず、しかも深めの締め。ちょっと歯ごたえがある普通のカスゴと比べて、とても柔らかく独特の食感。うまひ。こういう感じ、初めてだなぁ。

あと、トロの蛇腹。
脂の筋の部分を切ってバラし、三枚付けに握ってある。筋が口に引っかからず、すんなり喉に消えていく蛇腹。いいなぁ。

ちょっと失礼な言い方になるけど、「ちゃんと自分の頭で考えて追いこんである握り」って、やっぱりうれしいですよね。逆に好みが分かれる部分は出てくるかもだけど、ボク自身はとても幸せな時間を過ごせました。

店内、トンボの飾りがたくさんありますが、店主曰く「建築家が勝手にトンボを彫ったので、いっそのことトンボを象徴にしようかと」。特にトンボが好きってわけではなさそうでした。でもまぁ、青い山で泉だから、トンボがたくさん飛んでてもいいやねぇw 
posted by さとなお at 17:57| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月08日

いとう:くろいわ(恵比寿)

少し間があいてしまいました。申し訳ありません。
さすがに、年度末から年度始めにかけての忙しさと、さとなおさんが書いてた金沢の「玉響」〜「一献」からのつながりにしばし悩んで、時間が経ってしまいました。そういえば、「たまゆら」って銀座にもありましたね。さとなおさんが10円のマジックを披露した店(笑。彼女も元気でやってます。

さて、夫婦で営まれるケースが多い割烹の場合、女性の役割というか、占める位置がとても重要ですよね。基本的には料理を楽しみに訪れているんだけど、女将さんがいるのといないのとでは、料理自体の印象にも影響が出るように感じてしまう。さとなおさんも高く評価していた神宮前の「樋口」も、女将が産休で不在の時に伺って以降、すっかり足が遠のいてしまいました。きっと今では復帰されていることとは思いますが。

四谷三丁目にある「車力門ちゃわんぶ」でも、新たにこの地に店をオープンしてすぐ女将さんがオメデタ。今では出産して不定期ながら復帰されてますが、おられる時といない時の居心地の差が大きいように感じます。居心地だけですめばいいんだけど、料理の味にも差があるように思えるのが不思議。

と、そんな流れで、恵比寿に昨年11月オープンした「くろいわ」を紹介します。ここも、以前の修業先で知り合った二人が夫婦で始めた店。オープンのとき、東京の名だたる割烹から多数の花が届いていて、新しい門出とともに二人を祝福するようなムードも感じ、開店当初から興味を持ちました。

そんなキッカケもあって早々に訪問を重ねたので、店主曰く、ぼくが最初の「くろいわ」のリピーターだそうです。もうすでに超人気店だしグルメサイトの評価も高いので、これから訪問する方は少々予約がしんどいかな。

この店のなにより面白いところは、店主の奥様は女将ではなく板前なんですね。今までの、ほぼすべての割烹では、男性が主人で花板で、女性は女将でホールのサービス担当と確実に決まっていたわけですが、「くろいわ」は二人が料理人であり、酒のサービスも下げ物も二人が交代でする。夫婦共々、料理のことも酒のことも器のことにも通じている。最後に出されるお菓子は、「ぼくにはとうてい作れません」と、主人は密かに妻の自慢をする(笑。

初めて訪れた時、奥様がぼくの目の前で魚を切り出して驚愕。板前の花形仕事であるお造りでさえ女性に任せているその度胸。これからの日本料理店として、すごい可能性を感じてしまいました。

さらに、「10年後には、彼女が着物を着てカウンターの外でお酒のサービスをしているかもしれません」と、オープン当初においても、10年後の構想までサラッと語ってしまうところにも敬服。

料理は、日本料理を食べ込んでいる人からすれば、まだまだ整えただけな感じの皿も混じるし、やりたいことや情報が多過ぎて、整理のついていない幼さも、もちろんあります。でも、料理屋における女性の立場を変えるかもしれない店であり、多くの先輩や同僚からも支持される素晴らしい二人の将来に、多大な期待を抱かずにいられない、と思っています。
posted by 伊藤章良 at 18:14| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月18日

さとなお:一献(金沢)

「ふしきの」予想外なほど最高そうですね。

寒いうちに行きたかったけど、でも、春のちょっと寒く感じる日に絶妙なぬる燗を呑むのもまた一興。
ぜひ行ってみます。

さて。金沢に数年ぶりに行ってきました。

金沢って料亭はとてもいいし、居酒屋の名店も多いし、鮨もとてもいいけど、気軽に行けるカウンター割烹がもっとあるといいなぁと思っていたですね。

こないだ行った「一献」は、そういう意味では素晴らしい店でした。
でも、人気が出すぎて、いまや「予約が取れない店」らしいので、気軽に行けないのが難ですね。

4年前だったか、金沢市街からちょっと離れた丘陵地の住宅街にある隠れ家風の割烹「玉響(たまゆら)」という店に行ったですね。
そこは店員が美人ばかり、ということで有名な店で、カウンター割烹とバーが合わさったようなイメージ。薄暗く秘密めいた店内には長いカウンターが伸びており、その後ろは全面ガラスで金沢の夜景が一望できるロケーション。料理も良くて「また来たいなぁ」と思わせるいい店でした。たしか本にも書いた気がする。

そこの美人店員のひとりが結婚し、旦那さんと一緒に始めたのが「一献」です。
奥さんとはボクが「玉響」に行ったときにお会いしているそうなのですが、美人ばかりで目移りして覚えていないw でも、そういう文脈とともに店を訪れると印象はより深くなりますね。「一献」ではとてもいい時間が過ごせました。

丁寧で誠意に満ちた料理群。
インパクトこそ強くないものの、滋味溢れてカラダに染み渡ります。
春のこごみ、つぼみ菜、うるい、白アスパラのお皿にはしびれました。焼き物から土鍋ご飯に至る流れも秀逸。全体にうるさいところは何もなく、静かに淡々と進む印象の料理なので、もっと強い印象を求める方もいらっしゃるかもしれないけど、ボクは最近こういう静かな流れが好きです。

ご夫婦ふたりの接客もとてもよく、日本酒も厳選されていて良かったです(地元中心)。

開店直後からこうも人気が出てしまうとその後が少し心配になりますが、あの真面目そうなご主人ならきっと淡々と成長しつづけるんじゃないかな。奥さんと二人三脚で長く続けて欲しいいい店でした。

posted by さとなお at 18:41| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月02日

いとう:ふしきの(神楽坂)

さらなる九州の店、こちらも「きたうら善漁。」と双璧ですね。
(多少、行きやすいでしょうか 笑)

さとなおさんの文脈から感じられる空間の広さや奥行も、地代の高い東京ではなかなか実現しにくいところだし、芸術家のお宅ならではのセンスの良さにも惹かれます。

こんな店に匹敵する、というか繋がる場所がなかなか思いつきませんが、

>ただ、この店の場合、料理より「時間」が主役ですね。

というさとなおさんの言葉に反応して、つい先日、ステキな時間を過ごしてきた「ふしきの」を紹介します。

「ふしきの」は、燗番のいる日本料理店とカテゴライズするのが一番分かりやすいですが、それだけの言葉ではまったく表現しきれていない、すばらしい「清酒とのひととき」を体験させてくれる空間です。
燗番とは、その字のごとくお酒の燗をする人のこと。清酒を提供する店におけるソムリエのような存在。ただ、提供する酒について厳密な温度管理が要求される点で、ソムリエよりもさらに繊細な仕事のように思えます。なにより、ぼくの憧れの職業のひとつであります(笑。

燗番のいる居酒屋として、門前仲町の「浅七」や神楽坂の「伊勢藤」などが知られますが、店のセンターに陣取っている名物親父な存在感は否めず、こだわりゆえか様々な制約もあって今一つ寛げない。

一方「ふしきの」は、所作も話口調もとても柔らかくて上品な燗番が実にきびきびとカウンターの客を仕切り、特に酒を準備する際の動きやその道具の美しさは、ホレボレと見とれてしまうほど。

その燗番の方が作り出す「時間」が、本当に心地よいのです。

場所は神楽坂。メインストリートから少し脇にそれたビルの2階。とても飲食店とは思えない非常階段のようなステップを上がりスチール製のドアを開けた先に、想像もつかない静謐で小さな別空間がつながります。

料理は十数皿用意され、まずは燗番が客の酒量を聞く。そして、それぞれの料理に合う清酒を、各人の酒量に応じて全く違う温度と異なる形の酒器で提供。ときには熱く、ときには冷たく。何度も温めたり冷ましたりを繰り返すことも、二種類の清酒をブレンドしたりも。そうやって、それぞれの酒が持つ最高のポテンシャルが引き出された状態で口に含むたび、どうしてこんなにおいしくなるのだろうかと首をひねることになります。それはもう、空気や時間経過で変化するワインどころではない、驚きの連続。

飲んだ清酒をとりあえず記録しておきます。「みやさか」「遊穂」「喜久酔」「王禄」「扶桑鶴」「高津川」「達磨正宗 辰年ブレンド」「惣誉」「鶴齢」「大治郎」「saika」「悦凱陣」「群馬泉」「竹鶴」「七本槍」「百」

3人で17合。1人6合弱。でもまだまだ飲めた感じでした。

これだけの清酒と、料理とのマリア―ジュを愉しみ、酒の状態・温度・生い立ち、そして酒器の逸話等を燗番と語り合いながら時が過ぎていく。

どうです、最高でしょ。

特に今回印象に残ったのが、滋賀は近江の「大治郎」と鴨との組み合わせ。ここまで鴨と組み合わせてウマイ清酒は初体験でした。うちの鴨と日本酒は合わないよ、という「鷹匠寿」に持ち込みたいなあ(笑。

最後に、「ふしきの」は今月から、1日〜5日をバーディとして、メニューから清酒を選び(普段は癇番におまかせ)、つまみ程度の料理で楽しむ店となるそうです。その理由は、料理人を休ませるため、だそう。そんな対応も、今までの料理店にはなかった試みですね。

posted by 伊藤章良 at 17:09| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月20日

さとなお:手島邸(福岡)

「きたうら善漁。」、気になるでしょう?
そのうち、ここで食べるためだけに旅行をしましょう。ここ以外にも宮崎はうまいものだらけ。ぜひご一緒したいものです。

さて今日は同じ九州でもう一軒。
福岡の「手島邸」をご紹介します。早良区の住宅街にポツンとある一軒家レストランです。

ジャンルとしては創作日本料理ですね。伊藤さんもそうだと思いますが、「創作」とジャンルはたいていおいしくない。基礎がしっかり出来ていない言い訳のように使われている場合も多く、恐る恐る伺うことになります。でもこの店は大丈夫。きちんとした日本料理に工夫が加わった楽しい料理が並びました。

ただ、この店の場合、料理より「時間」が主役ですね。

ここがボクがとてもこの店を気に入った理由なのですが、実にゆったりした極上の時間が過ごせるのです。
手島貢という洋画家の一軒家を、趣やアトリエの雰囲気をそのままにリノベーションして利用しており、そこら中に彼の絵が飾られています。彼が生きていたころの空気もそのまま残っています。その一角、庭に面した窓前をカウンターに作り直して料理を提供してくれます。ノスタルジックでアーチスティックでクリエイティブ。とてもいい雰囲気。そして時間。

暗い住宅街の一軒家の階段を上がって小さな玄関に入ると、まずアトリエに通されてウェイティング。
残念ながらすぐにカウンターに通されましたが、このウェイティングで食前酒でも飲みたいくらいいい雰囲気で(たぶん頼めば出してくれる)、カラダがゆっくりこの空間に馴染んでいきます。

カウンターは広い庭が見える場所。庭のライティングをもっと凝ってくれるといいなぁ。
まずは水出しの最高級煎茶をゆっくり飲んで、お任せコースに入ります。

それぞれ工夫に満ちた品々が続きます。全体に繊細で穏やかな料理群。ちょっと印象が弱い部分もあって、たとえばメインの焼き魚なんかはもっと強く印象を残してほしかったりするけど、ここはあくまでも時間が主役。このバランス感は絶妙だと感じました。

ちなみに、ボクは九州の甘い醤油がちょっと苦手なのだけど、この店はわさび漬けを混ぜて刺身を食べさせてくれました。これがとても相性よくて感心。甘い醤油とわさび漬けと刺身。細かいところだけど、こんな発見を教えてくれる。そんな店です。

メインが終わると場所を移して(違う部屋に行って)、ソファでくつろぎながらデザートと珈琲をいただきました。

趣がある部屋がいろいろあって面白いです。
昭和の「ある時間」にタイムスリップして、手島貢という洋画家のセンスある暮らしに溶け込ませてもらった感覚。贅沢ですね。

こういう店、地方にも少しずつ増えています。「きたうら善漁。」も含めて、まだまだ知らない名店が多いんだろうな。ちょっと飽和しつつある東京の食シーンを脱出して、地方でゆったりとした時間を演出している名店たちをもっともっと訪ねてみたいと思いました。

posted by さとなお at 08:50| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月10日

いとう:鹿角(西麻布)

>80歳まで続けたら膨大なコンテンツになりますしw

いやいや、とても勇気が湧いてくる言葉。まずは、80歳まで健康で文化的なチョットイイ生活が営めることを目標に、こちらこそよろしくお願いします。

>さて、新年一回目は、驚異的体験だった宮崎県延岡市の「きたうら善漁。」

この店はすごいなあ。全く耳にしたこともありませんでしたし、さとなおさんの熱い筆にもおおいに心が動かされました。本当に興味津々です。その店に食べに行くためにのみ旅行をすることも年に何回かあるけど、その中の有力候補にしたくなってきました。というか、またさとなおさんが食べに行かれる時があったら、ぜひぼくにも声をかけてください。

さて、さとなおさんが地方の名店なら、ぼくは東京で食べられる地方料理繋がりにしてみます。西麻布の秋田料理店「鹿角」です。西麻布には通算1000回以上行っている気がしますがw、ここは今回初訪問、しかも、この店の前を通ったこともありませんでした。

場所は、外苑西通りから、青山墓地や星条旗通りへと分かれる多差路の交差点(「かおたんラーメン」がある)を墓地側に進んで最初の道を左に曲がったところ。西麻布ながら、見渡すところ飲食店はこの「鹿角」一軒のみ。といっても、すでにこの地で20年以上営んでおられる実績は只者ではありません。

こういった地方料理の店は、デフォルトとして「民芸風」みたいな外観や内装がつきものですが、「鹿角」はいたってシンプル。清潔で明るゆったりとしたダイニングに、普通にカウンターがありテーブル席が設けてある。美しい女性が待ち構えていると銀座のクラブ風とも言えそうw。そんなテーブルの一角に座ってメニューを見ると、それはもう自分の知っている秋田料理が全て並んでいます。

白マイタケ、セリ、じゅんさい、とんぶり、ハタハタ、比内地鶏、いぶりがっこ、そしてきりたんぽ鍋。もうこれだけでフルコース。酒のツマミとしても、真冬に心から温まりたいときも、そして低カロリーの食材をお腹いっぱい食べたいときにも、このフルコースはすべてに最適。しかも、東京西麻布にいながら、マイタケ、セリ、ハタハタなどの食材は超逸品。普段、ふつうに口にするモノとは生命力の違いを感じます。

なんといっても、この時期のメインデッシュはきりたんぽ鍋。注文をしておくと、女将さんがいい頃合いでじっくりと煮込んでいる様子がすでに視野の中に。お野菜やきりたんぽとともに、比内地鶏の身ばかりかレバーや玉ひも(内臓卵)などもどっさりと入り、素朴で変わらない(アレンジを加えていない)味。寒い地方の食文化にも改めて感謝の気持ちが湧いてきます。

酒は、秋田の清酒が数種類。店名と同じ鹿角という初トライの清酒は、冷や(常温)でとのお店側からの注釈つき。これが秋田料理と絶妙の相性で、やはりその土地の料理はその土地の酒、というのが世界共通ですね。
posted by 伊藤章良 at 17:54| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月29日

さとなお:きたうら善漁。(宮崎県延岡)

伊藤さん、みなさん、いまごろですがあけましておめでとうございます。
伊藤さん、今年もマイペースで更新していきましょう。こんなペースでも、80歳まで続けたら膨大なコンテンツになりますしw

伊藤さんが想像してたとおり、まぁ去年はいろいろあって、ある意味「自分らしくない」一年だったのかなと思います。でも、ものすごく貴重な体験をたくさんしました。というか、一時期「おいしい」という感情から離れてましたからねw 食に向き合えないというか。それはそれで数年経つとボク独自の見方になっているのだろうとは期待したいところです。今年もよろしくおつきあいください。

さて、新年一回目は、驚異的体験だった宮崎県延岡市の「きたうら善漁。」を書こうと思います。「きたうらぜんりょうまる」と読みます。各地から食べ好きがその噂を聞いてわざわざ訪れるという最近有名な割烹です。

延岡というのは宮崎市から北へ電車で1時間半くらいかな。
高千穂に抜ける海沿いにあるのですが、まぁ特に観光地というわけでもありません。駅も小さく、「こんなところに東京からわざわざ食べに来る人がたくさんいる店が??」と疑ってしまうほど不便な場所。九州新幹線も通ってないし、本当に行きにくい町なんですね。こんなところで経営していけてるのかなぁと心配になります。

駅からタクシーで5分ほど。飲食街にひとつだけ超モダンな和風建築一軒家がポツンとある。ここが「きたうら善漁。」です。いや、たしかに、これはタダモノではないかも…という雰囲気を醸し出してます。

中に入ると広いカウンターが6名くらい、奥にテーブル席が4つほど。それと2階もあります。延岡にしたら大箱だと思いますが、とても親密な雰囲気が漂っていて「あぁここは間違いなくいい店だ」とカウンターに座った瞬間にわかる感じ。

メニューは毎日変わるし、お客さんによっても変化をつけているみたいです。
ボクたちは何度か来たことある方と一緒だったので、その方のリクエストも取り入れたコース構成でした。

この日は粕汁から始まりました。
暖まったし新年っぽいけど、でも料理長はこの後いったいボクたちをどこに連れて行こうとしてるんだろうと少し不安になりながらのスターターではありました。

でもこのあとがすごい。メニュー(ひとりひとり刷り物をくれます)に書かれた文章を抄録しながら書いていくと、

尾長ぐれ(硬直の直前を狙い十二時間前に〆た)
サンノジ(あまり注目されない魚をおいしく焼っ切り)
寒ブリ(三日間風干しした活〆を燻し焼き)
白菜(鰹と昆布のお出汁で)
安納芋(低温で二ヶ月寝かせて低温で二時間焼いたもの。マスカルポーネなどと)
吉玉家の豚フィレ(低温で三週間熟成した肉を六種類の熱源で火入れ)
ご飯(無農薬栽培の米を土鍋で)
ぶえん汁(自家製味噌の汁)

どれも素晴らしかったけど、特に印象的だったのは、出汁の味とサンノジと安納芋。そして、なんといっても豚フィレ肉。

この豚フィレ肉、まずは「吉玉家(一部「よっとん」と呼ばれてます)」の豚がすごい。育て方も相当すごいらしいのだけど、味が超繊細で飲み込むのが惜しい感じ。それを六種類の熱源で慎重に長時間火入れしてあるわけです。

ここまで繊細かつ完璧な火入れをする店は、他に白金の「カンテサンス」くらいしか思い浮かびません。そのくらいは繊細だし、そのくらいはおいしい! というか、これはもう和食というかフレンチというか、ジャンルも思い浮かびませんね。盛りつけも含めて、とても都会的なことは確か。

調味料も厳選したものを使っていて安心できるし、日本酒やワインもちゃんとしたものを置いています。従業員の意識も高いし、ご主人もマダムも素敵。いやー、ここ、ホントに延岡?? 

で、驚きは、このコースが5500円であること。
客観的に言って、東京なら12000円のコースだとしても文句はないです。そのくらいレベル高かったし美味かったし楽しかったです。また季節ごとに行かなくちゃ!

地方都市での高級店経営は大変です。お客さんの数もそうだけど、たとえば鮨店なら「酢で締めてるなんて古い魚使ってるんだろう!」とか言われたりすると聞いたことがあります。そういう意味で、こういう店を地方都市でやっていくのは本当に大変だとは思いますが、この日も満席、予約が絶えないそうで、ご同慶の至りです。

なお、以前は善漁丸という船からの仕入れだったそう(いまは大日丸という船からのもののようです)。
延岡を離れないのは、この辺の素材の良さから離れられないから、だそうです。勝手知ったる延岡の魚や野菜や肉。それらと末永くつきあっていくのだ、という気概を店の外観・内装・料理・従業員から感じました。

東京もんには不便だけど、また行きたい良店です。

posted by さとなお at 21:04| 和食(小料理・割烹・郷土料理) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする