2015年09月01日

さとなお:シェ・ピエール(乃木坂)

伊藤さん、すいません、一日更新遅れちゃいました(最低でも月一更新は死守しようってこの前言ったばかりなのに・・・)。

その東麻布の店、当時よく行きました。当時の最先端でしたよね。そういうチャレンジがとても目新しく感じられる時代でもありました。

さて、では今回はチャレンジつながりで。
1960年代、まだ子供たちが駄菓子に夢中になっている時代、本格的なパンなんて望むべくもなかった時代、日本にフランスパンを広める、というチャレンジをしたフランス人がふたりいます。

ひとりは、関西のフィリップ・ビゴさんです。
芦屋に「ビゴの店」を開いて、それが当たったのでわりと有名ですね。

ボクは関西勤務時代、このビゴさんの本店兼レストランのすぐ近くに住んでました。で、大柄で朗らかなビゴさん自らの給仕をレストランでよく受けていました。なので、いまでも東京とかでビゴの店を見かけると、なんだかとても親密な気分になります。ビゴさん元気かなぁって。

でも、同じく立役者なのにビゴさんほどは知られてないのが、乃木坂の老舗ビストロ『シェ・ピエール』のオーナーシェフ、ピエール・プリジャンさんですね。

ボクは、東京に転勤で戻ってきて、長年勤めた会社から独立して事務所を開いたのが乃木坂でした。
その事務所がある小さなマンションの横が「シェ・ピエール」でした。
日本で、フランス人オーナーのビストロとしては一番古い(1973年創業)、ということは知っていたのだけど、このピエールさんが「日本にフランスパンを広めたもうひとりの立役者」とは知らなかったなぁ。

神戸の老舗(今年で創業110年)のパン屋「DONQ(ドンク)」に、このピエールさんとビゴさんのふたりがいたんですね。ドンクのサイトから引用してみます。

日本ではじめて本格的なフランスパンの製造、販売を開始した1965年当時、フランス産の小麦粉は輸入されておらず、良質のフランスパンを作るのは非常に困難でした。そこで、日清製粉株式会社様がドンクにフランスパン専用粉の開発を申し出、当時ドンクで働いていたピエール・プリジャン氏やフィリップ・ビゴ氏がテストを重ねながら、フランス国立製粉学校の教授レイモン・カルヴェル氏指導のもと、リスドオルと命名されたフランスパン専用粉を完成させました。用いられたのは、日本で手に入れることのできた小麦のみで、フランス産の小麦はもちろん入っていませんでしたが、そのクオリティは高く、はじめてフランスパンを口にした日本人を感動させただけでなく、在日のフランス人たちをも大いに喜ばせたのでした。
小麦が一部自由化された現在においてもリスドオルの評価は高く、焼き立てのパリパリ感と中身のしっとりとした甘さは、リスドオル特有のものといえます。

そう、このふたりが「日本のフランスパン」にものすごく大きく貢献しているのです。
ビゴさんは独立して芦屋に「ビゴの店」を開き、ピエールさんはビストロ「シェ・ピエール」を開いた、ということです。

ビゴ本店の近くに住んでいたのみならず、ピエールの隣にオフィスを持っているとは、なんとなく縁を感じます。フランスパン普及の苦労話をピエールさん本人の口から聞いて以来、ボクの大切なレストランのひとつになりました。

この店、2年前に40周年だったんですね(場所は一度移転している)。
40年、日本でビストロをやっていると、それなりに日本人の舌に合わせてきている部分はあるかもしれません。でも、外観や内装の本場っぽさ(本当にパリっぽい)も相まって、これこそフランスだなぁと毎回思います。

なんというか「ずっとずっと日本にフランスパンやフランス料理を広めるために営業しつづけてきてくれたピエールさんの日々の言いしれぬ努力がすべて入った滋味溢れる味」という感じ。飾らない、素朴で実質的な、でも奥の深い、長い歴史がじっくり煮込まれたようなありがたい味。そういう印象です。

この店でモンサンミッシェルから直送のムール貝とか、日本一のブイヤベースを食べてると、本当に日本にいることを忘れます。ピエールさん本人も頻繁に客席に顔を出してサービスしてくれるのも含めて。

そして、これはマダムのおかげだと思うけど、装飾品も多いのに、清掃が驚くほど隅々まで行き届いていて気持ちがいいです。本当に清潔でコージーな空間なのです。

この店に行くたびに、本質的な意味で「日本のビストロの先駆け」であり、「精神的支柱」なんだなぁ、と思います。新しい店も大切だけど、こういう店にもっともっと敬意を持ちたいですね。

実は昨日、乃木坂から表参道にオフィスを引っ越しました。
「あ、オフィスの場所? 青山葬儀場の真ん前の『シェ・ピエール』の隣のビルの4階だよ」とか、もう人に説明できないんだなー、ランチとかにふらっとピエールさんに会いに行くことももうないんだなー、と思うとちょっと寂しいです。

昨晩、そんなことを想いながら帰路についていたので、今回は「シェ・ピエール」を書いてみました。50周年、60周年と、ピエールさんに元気でいてほしいです。日本の宝です。

posted by さとなお at 06:55| フレンチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする