2010年10月28日

いとう:上燗屋 富久(新宿)

さとなおさんが地方にある名店を取り上げると、次にどこを書こうかとしばし悩んでしまいます・・・。先日青森県黒石市にある「すごう食堂」で、ここが元祖といわれる「つゆやきそば」を食べたので、それを紹介しようかなあと思うも、三行ぐらいで終わりそうゆえ断念(笑。

そこで、地方の名店と肩を並べるべく、新宿三丁目にありながら、まったく東京都心とは思えないおでん屋「上燗屋 富久」を書いてみます。ここは、いわゆる末広亭エリアといいますか、新宿界隈でも一番飲食店の密集している場所。古くは「どん底」「ぼでごん亭」から最近のチェーン店まで新旧が入り混じって、共存しています。

「上燗屋 富久」は、もちろん古い側の最右翼。靖国通りに近い方にあるので、まわりはいくぶん静かですが、それでも眼前のビルは全て居酒屋か?といった風情です。

ただ、店内に入るとガラリと一転。くたびれた感じは全くないピカピカに磨きぬかれたカウンター。そこを年配の夫妻が二人で仕切ります。もちろんメインディッシュはおでんですが、刺身や焼き物、そして目の前に並んだ「おばんざい」系の料理にも、グッと惹かれます。

まずはそういった大皿料理からセレクト。いずれも控え目の味付けで、夫妻が西の人であろうことは、この辺から分かってきます。そして、おでん。おでんは極めて薄い色のダシに浮かんでいますが、食べてみるといずれもしっかりと味がしみこんでいて、仕込みの丁寧さに感動。そこに強烈に辛いカラシが添えられて提供されます。

そして清酒は「日本城」のみ。東京ではほとんど見かけることのない和歌山の酒。それをおでんと同じ湯煎でスズの特大徳利に入れて温めます。お燗番とおでんの担当はお父さん、それ以外の料理はお母さんという役割分担ですが、後半になるとお父さんが疲れてきて動きが少し遅くなるので、お母さんのヘルプがまた頼もしい(そのころにはサイドメニューを頼む人も減ってくるし)。

そんな理由からも、夫妻は和歌山県出身のよう。そういえば、くじらの料理もいくつかありました。

上燗とは、人肌よりすこし上の温度のことと言われ、おそらく「富久」ではずっとその温度で提供することをモットーとしておられたと拝察しますが、さすがに忙しくなってくると、燗の温度が注文の都度違うのは少し残念。それと、予約を入れたにもかかわらず席が確保されておらず、たまたま空いていたのでラッキーだったのですが、その後に来た予約のお客様には席がなく、「電話したんですが・・・」と何度も訴える女性客には少し気の毒でした。

お孫さんとか、若い衆で「上燗屋 富久」を手伝う人とか現れないかなあと、あの店のすばらしさを知る一人としてそんな期待もしてしまいます。
posted by 伊藤章良 at 23:18| 和食(鍋・おでんなど) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする